Fräulein Bröselsとの出会い

Fräulein Bröselsとの出会い

「今度ドイツに出張があるから、何かお土産を買ってくるね」

そう仰ってくださったのはご常連のSさんだ。
Sさんは飲食関係者ではないが世界各地の蒸留酒が好きで、出張で世界中を飛び回る多忙の中、合間を縫っては蒸留所にアポを取り、個人の趣味で見学へ訪れているというなかなかな蒸溜酒マニアだ。

当時新宿のフルーツブランデー専門店にいた頃、ヨーロッパ、特にフランスを中心に世界各国のフルーツブランデーを扱っていた。もちろん隣国であるドイツもフルーツブランデーは広く一般的に造られており、特にサクランボの蒸留酒であるキルシュヴァッサーは日本でも製菓材料として使われることもあり広く認知されている。

「ドイツ、いいですね。キルシュはすでにいっぱいありますから、もしよろしければそれ以外の素材で面白いものがあれば是非お願いしたいです。」

日本で手に入るものには限りがあり、現地へ行かねば出会えない新しいものや珍しいもの、上質なものなどが多くある。海外へ行く機会は出張族でもなければお店を離れられないバーテンダーにとって滅多にない機会だ。こうしてお客様が海外へ行く際にお土産で頂けるのは非常にありがたい。

数日後、Sさんが持ってきたのは「シュナップス」だった。

シュナップスとはドイツやオーストリアで造られる蒸留酒の総称で、キルシュヴァッサーもシュナップスの一種と言える。しかし、シュナップスは日本でも少量ではあるが入手可能で、それでいてベースアルコールに素材を浸漬して香りをつけたのちに蒸留して仕上げるため、フルーツを発酵させゼロからアルコールを造るタイプに比べて香りの強さや余韻が劣る印象が強かった。

「松沢さん、最近ドイツでシュナップスがキてます」

いやいや、キてるも何も昔からあるし、そもそもドイツならシュナップスはあって当たり前だし、何がどういう風にキてるのだろうか…?

色々な疑問が思い浮かぶ中、ワクワクしながらお土産を受け取る。



えっ、かわいい…



可愛い、とても


問題は味わいだ。香り、余韻、口当たりなど気になる部分は多くあった。


めちゃくちゃ美味しい…

聞けば、シュナップスは年配の方が飲むものであり、若年層はもっぱらビールばかりで、自国の伝統文化でもあるシュナップスから離れつつあるのだと。
そんな中若い女性が現状を打開すべく、シュナップスを造り始めたという。
やるなら徹底的に、とラベルデザインもモダンで可愛らしく、馴染みやすいように。それでいて品質はハイエンドなものを。

とんでもないシュナップスが現れた。

世界中のフルーツの蒸留酒をおよそ1000種類は飲んだと思う。トップクラスで口当たりが柔らかく、香りも分かりやすかった。

「Sさん…これ…とんでもないですね…」
「でしょう」

すぐさまFacebookで生産者を探し、その責任者であるステファニーさんへメッセージを送った。

「日本はおろか、他国にはまだ一切展開をしていないのに、私の製品を知っているなんて驚いた!是非感想を教えて!」

向こうも予想外の出来事だったようですぐに返信が来た。
こちらも負け時と興奮気味に返信をする。

「こんなにスムーズで香りの強いシュナップスは初めての体験だ!東京でフルーツの蒸留酒を専門で扱うバーをやっている。ゆくゆくはお酒の輸入も始める予定で、その際は是非輸入させて頂きたい。」

他にはどんなラインナップがあるのか?そもそもどうやって造っているのだろうか。聞きたいことがいっぱいあった。

そんな中Sさんが取り出したもう一本があった。

「松沢さん、これもとっておきです」

ヘーゼルナッツのシュナップスだ。
これにもとてつもない衝撃を受けた。

そうか…浸漬で造るのであれば発酵しない、フルーツでないものからも蒸留酒が造れる…

当たり前のことではあるが、視野が狭くなっていた自分には信じられないことだった。

ボトルを開けた瞬間から甘い芳香が爆発的に漂う。

やべえ…こいつぁやべぇぞ…

絶叫した。いや、発狂した。
これはとんでもないものと出会ってしまったな…

2018年9月28日のことだ。
出会わせてくれたSさんには感謝してもしきれない。そしてこれを生産しているステファニーには色々と話を聞かねばと思った。

「いやぁ…Sさん…なんてことしてくれたんですか…笑」
「笑」
「いつの日か必ず輸入しますから、待っていてください」

それからステファニーとやりとりを続け、松沢も会社を立ち上げ酒販免許を取得。
ゆっくりではあったが確実に一歩ずつ前進していた。

お店の立ち上げ、パーリンカの輸入、現地視察なども同時進行をし、ついに輸入許可が出た。
このシュナップスとの出会いから約4年が経過していた。

満を持して2022年12月8日、販売開始。
あの日の衝撃を皆様にも味わって頂きたい。

まずは是非ストレートで。ロックでも美味しい。
トニックで割っても美味しいですしサイドカー系の甘酸っぱいカクテル、ネグローニ系の甘苦いカクテルとも相性抜群。

ハイエンドなシュナップス、高級だがそれでも自信を持ってお出しできるボトル。
そして何より部屋に飾っておくだけでも可愛らしいこのボトルは是非手に取ってご覧頂きたい。
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