Distillerie de Grandmont

GRANDMONT蒸溜所との出会い

時は松沢が修行時代にBar BenFiddichで働いていた頃に遡る。

World Best Bar50にも毎年ランクインし、飲食系の雑誌で見ないことはない、そして先日地上波でも特集をされたほどの『西新宿 Bar  BenFiddich』。私の師匠である店主の鹿山氏は魔術師と言っても過言ではないほどのミクソロジストだ。見たことのない組み合わせや様々な技法を駆使し日々最先端のカクテルを生み出し続ける。 

薬草酒を専門に扱うこのバーで働き始めて2年目の2016年、アブサン(ニガヨモギを主原料とする薬草酒)の蒸溜所への見学、及びゲストバーテンダーイベントのためにフランス、スイスへと渡航した。

この渡航は他のバーでは経験できないような刺激的な毎日を送っていた中でも特に刺激的なイベントだったことを昨日のように覚えている。

パリに到着後、現地の酒類メーカーの方のアテンドで食事をし、翌日ゲストバーテンダーイベントを終え、レンタカーを借りてフランス東部へ車を走らせアブサンの蒸溜所へ向かった。国境沿いポンタルリエを回り、スイスの小さな村の蒸溜所へも伺った。

この時の渡仏の目的はこれだけではなかった。
懇意にしていたオールドボトルコレクターの元へ訪れることだった。
その方こそGrandmont(グランモン)蒸溜所を立ち上げたKarim(カリム)氏だ。

彼の家は凄まじかった。地下倉庫に並ぶオールドボトルの数々、絶景という他なかった。
年代物のワインを飲みながら食事を頂き、語り合う。

 



食後にオールドリキュールを飲みながら昔のリキュールの魅力、商業化された現代のリキュールとの違い、落胆、そして期待、様々なことを語り合った。惜しげもなく次々とオールドリキュールを開栓して頂き、年代ごとの違いやラベルデザインの変化、ボトル形状の変化など、深夜までオールドボトルのレクチャーを受けた。なんとも贅沢なひととき。松沢のオールドリキュールに関する興味、知識はこの経験があったからだと振り返る。

師である鹿山さんは更にのめり込む様に質問を投げかけ、自身の想いを伝え、カリム氏と意気投合していった。この姿勢は今でも自分のスタイルの中で重要なものとなっている。

語り合う中でカリム氏は「昔のレシピを現代に蘇らせられないか」「歴史を投影したリキュールを造り、現代社会に送り出したい」という一つの熱意を胸に秘め、Distillerie de Grandmont(グランモン蒸溜所)を設立することを決意したという。
この話はこの時は全く知らず数年後に知ることになる。

 

「蒸溜所設立のきっかけはまさにあの夜だ。」

 

これを聞いた時、本当に感動した。元々蒸溜所をやろうと思っていたわけではなく、あの夜語り合ったことで芽生えた想いが今に繋がっているのだと。もちろんこれは鹿山さんとの語り合いの中で芽生えたことで、松沢は同席したに過ぎない。しかしその場に立ち会えていたことがとても嬉しい。

そして我々が創業してから輸入免許を取得し、お酒の貿易事業を始める旨を伝えていたこともあり、蒸溜所を設立し製造したリキュールを世に広めるにあたり、日本へ輸出する際は「松沢にお願いしたい」という気持ちを受け取った。

もちろん販路を広げ認知を広めるにあたって大手の輸入業者を通した方が好手なのは言うまでもない。カリム氏はこれまで他の輸入会社へも話を持っていったこともあったが、少量生産であること、薬草系のリキュールという輸入難易度が非常に高い商品であること等から、なかなか実現することが出来なかったという。

薬草系のリキュールの輸入難易度が高い理由は主に薬機法に関わるものだ。

輸入される食品の全ては検疫で原材料、製造工程、含有成分に対して全ての秘密を明らかにしてから検査が行われ、日本国内の基準値をクリアしていないと輸入販売に至らない。薬草系のリキュールはその成分の多くがハーブ・スパイスであるが故に各原材料の薬効成分に関する検査項目が非常に多く、輸入できないものが多い。

例えば、巷でよく飲まれるアブサンの原材料であるニガヨモギなどもそれに当たる。カリム氏のお酒たちも、多数のハーブ・スパイスが複雑な工程を経てその洗練された味わいを出しているため、一つ一つ安全性や国内のルールとの適合性を確認しながら、輸入をすることになった。

特にAmer Gentianの原材料であるゲンチアナに関しては、非常に多くの確認事項があり、最も時間が掛かってしまった原因の一つである。

当時お酒の輸入に関して社内での知見があまり無い時に、始まったこの取引は、蒸溜所設立、リキュール製造、そして実際に世紀輸入として私達の手元に届くまで実に4年の歳月が過ぎていた。

 

2023
91日 グランモン蒸溜所の製品全てが通関

96日 受領完了

検品、商材撮影、販売方針など諸々の作業を終え

108日 販売を開始

 

ここで今回リリースする3種類のリキュールを紹介する。

Amer Gentiane

グランモン蒸溜所で最初に造られたゲンチアナリキュール、これは日本のバー業界に革命が起きると確信している。日本中のカクテルバー、ミクソロジーカクテルの幅が格段に跳ね上がる。

今までにないクオリティに仕上がることは間違いない。日本のバーの歴史における大きな転換期の一つと言っても過言ではないと思う。

 

 

追記:ゲンチアナとは何か

 リンドウ科の多年草でピレネー山脈やヨーロッパアルプスなどの亜高山帯に広く分布し、夏に黄色の花を咲かせる。

2016年7月にフランス、スイスへ訪れた際に出会った野生のゲンチアナの写真がこちら

日本の秋の草原に咲くリンドウと同じ仲間。

 

これの『根っこ』の部分が使われる。根っこはこんな感じ。

フランス、スイスの国境付近では野生のゲンチアナが大量に生えていた。

初めて見る野生のゲンチアナにテンションが上がる。絶景に酔いしれていると虹が掛かった。

このゲンチアナを使ったリキュールは日本での知名度は低いが、フランスを中心にヨーロッパでは広く一般的に常飲されており、ピカソが愛したことでも有名だ。

Triple Sec Curaçao Blanc

グランモン蒸溜所の第2弾、トリプルセック(ホワイトキュラソー)

これは日本に多く輸入されているトリプルセックと比べると非常にドライに仕上がっており、甘さが控えめ。余韻に残るオレンジの香りが圧倒的に強烈で、甘さが控えめなためカクテルに仕上げる際、それぞれのバーテンダーの理想の完成系に調整しやすい。甘味は後から足すことはできるが引く事はできない。もちろん他の素材の組み合わせ次第で甘味を紛らわせることはできる。しかし甘味の絶対量というのは変わらない。元々甘味が少ない分、微調整をしやすい。甘味を後から加えることができるというのは強みだ。

 

Le Chemin Des Moines

3弾は薬草酒Le Chemin Des Moines(ル・シュマン・デ・モアン)

某修道院で造られているリキュールに近いものを感じる方も多いと思う。

このリキュールは蒸溜所の原点とも言える。カリム氏の熱い想い、そして歴史の詰まった一本だ。

11世紀から12世紀にかけて存在したグランモン修道院。1046年に生まれた修道士エティエンヌは青年時代をローマで過ごした後に、キリストの教えに従い財産の全てを捨てアンバザック近くのミュレの森に隠遁。彼に心動かされた数人の弟子が加わり、グランモン騎士団が形成される。1124年エティエンヌの没後、騎士団はベネディクト会によってミュレの森を追われることとなるが、1154年プランタジネット朝、フランスの貴族であったアンジュー伯アンリがイングランド王ヘンリー2世となり彼の恩恵により1166年にグランモン修道院が奉献。

12世紀末には1200人を修道士を擁する大規模な修道院となった。そこから百年戦争、宗教戦争を経て14世紀から16世紀に掛けて衰退していく。1788年、修道院は取り壊されることとなる。

Chemin Des Moines

日本語訳すると『修道士の道』

この修道院から氏の住むアンバザックへ続く道の始まりにある石垣がラベルに描かれている。とても歴史のある、そんな風景を切り取ったラベルだ。

 

900年前に思いを馳せて、グラスを傾けて頂きたい。

 

2023年10月8日

今日、これをリリースするまでに多くの人の熱い思いが積み重なっている。

ただアルコールを摂取するという飲酒行動ではなく、その背景まで思いを馳せて嗜好品を楽しむというところに意識を向けてほしい。

 

Cher Monsieur Karim.

Nous avons enfin réussi.

Mais ce n'est qu'un début.

L'histoire de l'industrie des boissons alcoolisées se souviendra de cet événement.

Continuons à avancer ensemble.

Takeshi et Takuma

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