CAPREOLUS蒸溜所との出会い

CAPREOLUS蒸溜所との出会い

皆さまが普段から愛飲しているジャンルのお酒はあるだろうか

 

酒界隈。そこには日本酒界隈、ワイン界隈、ウイスキー界隈、ジン界隈、など様々な界隈が存在する。数少ない”フルーツブランデー界隈”の民であるTwitter(現X)のフォロワーからDMが届いた。(フルーツブランデーという言葉は普段あまり使わないようにしているが今回はあえてフルーツブランデーという単語を多用する。)


「近々海外からお酒を輸入しようと思うんですが、ご一緒にどうですか?」


海外から購入するとなると送料が高額になるため、仲間内で希望するものをリストアップし、送料を折半で購入するということが稀によくある。

こんな感じで突然送られてくるDM。とりあえずテンションが上がる。数少ない界隈仲間、大事にしたい。

 

 

「いいねいいね。どこで買いますか?」


送られてきたサイトから色々と物色している中で異質なものを見つけた。


CAPREOLUS DISTILLERY

BLACK CURRANT Eau de vie(カシスのオードヴィ)

138£/375ml


(たっけぇ……)

思わず声が溢れた。

いわゆるフルーツブランデーが安いものではないのは誰よりもわかっているつもりだったが、今まで見てきたハイエンドなものから得た相場感からかけ離れており思わず出てしまった。


いくらなんでも高額すぎるのでは……いやしかし原材料に依存し香りが価格に比例する傾向があることを踏まえるととんでもないクオリティの可能性も高い………

オードヴィやパーリンカと言われるお酒は使用する原材料の量もさることながら、原材料の収穫、選定、発酵具合の見極めや蒸溜の熱の入れ方など、細かい職人技を必要とする。基本的に素材そのものの香りを楽しめるようステンレスタンクでの熟成が主流で、樽熟成をしないため香りは原材料に依存し、誤魔化しが効かない(樽熟成しているものは香りを誤魔化しているという意味合いではない)。



フルーツブランデーの第一人者として、これは知っておきたい。

そう思い購入に至る。


そこから数週間、2021年9月13日。

ボトルデザインだけでなく、ラベル、同封されているイラスト、どれも洗練されており生産者の熱量が伝わってきた。飲む前でこのワクワク感だ。

早速開栓しテイスティング。


「えー!?すげぇー!!!!」


思わず大声で叫んでしまった。

そのくらいの衝撃。フレッシュ感が今まで飲んできたオードヴィの遥か上のクオリティへ突き抜けていた。とんでもない造り手に出会ってしまった。


価格が価格だけに心配ではあったが、とんでもない。今まで飲んだ世界トップクラスの造り手と肩を並べていた。


……

さらに時は過ぎ2023年9月21日

コロナ禍で様々なことに挑戦している時期だったことも相まって、少しの間頭の中からカプレオラスの存在が薄れつつあったが、ふと思い出し改めて生産者について調べようと画面と向かい合った。

やはり時代はInstagramか……普段あまり触れないInstagramにカプレオラス蒸溜所のアカウントがあったため覗いてみると[フォローバックする]というボタンが見えた。


ん?!

つまり、これは…?フォローされている状態…?


Instagramでカプレオラス蒸溜所に触れたことは一度もなかった。しかしすでに蒸溜所からはBar Pálinkaが認知されていた。衝撃を受けた。


これはすぐにフォローしてコンタクトを取ろう。この生産者のことをもっと深く知りたい。

そう思いフォローバックをしてメッセージを送ろうとした時、カプレオラス蒸溜所のバーニー氏から早速メッセージが届く。


「あなたのことは以前からリサーチしていました。

今後日本へも輸出をしたいと思っていましたが知名度の低いジャンルということもあり、必死に情報を集めていたところあなたに行きつきました。フォローバックありがとうございます。」


先を越されてしまった。

いや、スピード感すごいな……?

負けてられねぇと意気込み、カプレオラスの製品を初めて飲んだ時の衝撃を伝えた。それだけでなく日本でもオードヴィというジャンルは知名度が低いこと、専門的に扱っているバーテンダーやソムリエも少ないこと、しかしプロであれば当然存在は知っていること、そして自分がそれの第一人者と言っても良いほど経験を積んでいること、会社として輸入業もしていること、知名度が低いながらも必死に世間に広めようと活動していること、パーリンカに注力している理由、その中でも特に格別な蒸溜所について、とにかく自分の想いや知っていることを書き連ねた。


最初に蒸溜所を知ってから丸々2年経過してしまったことは少し後悔をしたが、結果から言えば逆によかったと思う。私自身の知識や経験、弊社の輸入規模や能力を踏まえると、この2年間でかなりの実績を積んでいた。

 

もし仮に当時気持ちだけ先走ってアプローチしていたら、空中分解していた可能性もある。

 

そこから輸入実現に向けたやり取りを始めることになる。

 

すぐさま社内でもそれを共有した。

カプレオラス蒸溜所という造り手がどのくらいすごいかをなんとか伝える。弊社はデザイナーチームとバーテンダーチームで分かれているが基本的にバーテンダーは松沢1人で他のメンバーはデザイナー。会社として酒類の輸入をしているので他のメンバーもお酒に関する最低限の知識はあるが、どう伝えるのがベストなのか言葉を選びながら情報の共有をした。


そこから数ヶ月、様々なデータやサンプルのやり取りをし輸入に向けて動いている時、


菅原「今度家族でイギリスに行ってくる」

 

という一言。

 

菅原はロンドンで育ったこともあり、彼にとっては帰郷とも言える。

 

 

松沢「もし可能なら、いや、近いわけではないから難しいと思うんだけど、蒸溜所まで行って欲しい……」

 

蒸溜所にアポをとってなんとか時間を作って足を運んでくれた相棒菅原に感謝…


現地を訪れた時のことを綴れるのは本人しかいない。伝聞では限界がある。

輸入販売に至るまでの背景、現地での感動や興奮を体験していただきたいというMaToPeの本来の目的は、これに関しては松沢では担えない。


MaToPe史上初、代筆。

ここから菅原にバトンタッチをする。

皆さま、はじめまして。松沢とずっと一緒に走り続けている菅原です。

突然ですが”Go West”と聞いて何を思い浮かべますでしょうか?

Village Peopleのあの誰もが知っている名曲でしょうか(僕ら世代はPet Shop Boysのカバーでしょうか)、それともアメリカ西部開拓時代でしょうか。

 

僕たちにとってのGo Westはまだ日本に無い、ユニークなお酒を探して日本に紹介する活動そのものです。


初めはハンガリーのパーリンカを日本に150本輸入しました。
次にドイツのシュナップス、チェコのスリヴォヴィッツ、フランスのハーブリキュールといったり来たりしながら、少しずつ西へ進んできたのです。

僕らの開拓精神はついに英国までたどり着くことになりました。
子供の頃9年ほど英国に住んでいた僕にとっては、”ただいま”でした。

松沢から聞いていた、とんでもない造り手がいるという話はずっと気になっていましたし、英国ということもあって非常に興味を持っていました。

しかし蒸溜所への見学、つまり生産者のこだわり、哲学を見聞きし、理解し、onewとして日本に紹介するべきかどうか判断するまでには、中々至らずにいました。僕達にとって、ハンガリーやチェコ、ドイツはより優先的な訪問先であり、英国に行くチャンスは過去2年間ではあまり巡って来ませんでした。

ちょうどその時、2024年に個人的に家族で英国に行くことが決まりました。現在ロンドンでフットボール関連のビジネスをしている弟に会いに行く為でした。

 

家族は直行便で行く中、僕はもちろん最安の上海経由で英国入りし、無事に英国で家族の再開を果たしました。

その後僕だけ、パディントン駅からGreat Western Railway(ロンドンから更に西に進むことができる鉄道)でSwindonを経由し、Kembleという小さな駅まで行きました。

蒸溜所は日本人観光客が多く訪れるコッツウォルズで有名な、グロスタシャー行政区域にあり、その中のストラットンという小さな町で作られています。

唯一の生産者であるバーニー氏と彼の犬が駅まで車で迎えに来てくれ、赤い小さな車に乗って蒸溜所まで案内してくれました。その間、車窓から見えるどんよりした雲、畑や牧草地はやはりイングランドらしさ全開であり、ハンガリーやチェコのそれとは大きく異なって見えました。

蒸溜所はこれまで訪問してきた所とは全く違い、完全なる民家でした。セミデタッチド様式の素敵なお家に案内され、犬と少し戯れている間に、紅茶を用意してくれました。彼の家族と挨拶し、キッチンで世間話をしていると、まるで友人の家に遊びに来た感じがして、僕は一体今何をしているんだろうとふと紅茶をすすりながら、思いましたが裏庭を案内いただくとちゃんとありました。蒸溜所が。

正直この規模感を全く想像してなかったので、”これだけ!?”と聞きそうになりましたが、ここからとんでもない品質のお酒が生産されている凄みを改めて感じました。具体的な生産の工程やフルーツのポテンシャルを引き出す異常なまでのこだわりについては、後述の松沢の文章をご参照ください。

製法や素材へのアプローチ、考え方等を一通りディスカッションし終えて蒸溜所を見学した後は、屋根裏の貯蔵庫に案内していただきました。

ここでは加水前の原酒やボトル詰め前のお酒がステンレスタンクに貯蔵されています。加水前のものは70%ほどになります。原酒故の圧倒的な香りがありました。


バーニー氏は「正直、加水したくないよね」と言っていました。僕もそう思うほどの圧倒的な香りでした。


こういったものを体験できるのもまた、蒸溜所に訪れる醍醐味ですね。

 

この贅沢極まる試飲の数々。

とんでもない工程を経たシンプルな原料が織りなす複雑な香りと余韻の長さは、フルーツブランデーの素晴らしさに改めて気付かされました。

彼の想いや考えを多分に伺い、様々な意見交換を行い、充実した訪問になりました。
次回は松沢を連れて行くねと約束してその日に家族に合流するべく電車でBathまで帰りました。


 英国は乏しい食文化で非常に有名かと思いますが、英国には日本に通ずる職人的気質を持った方も多いです。
スコッチウイスキー然り、お酒だけに限っても多くの伝説的な生産者がこれまで多くの素晴らしい製品を世に送り出してきました。


このCapreolus蒸溜所もまさしく、今後伝説的な生産者として多くの人の記憶に残るだろうと考え、僕は日本にも是非紹介しようと松沢に連絡を取りました。

 

 

バトンが戻る。

 

お気付きかと思うが今回はネタ要素少なめ。我々の全力全開の熱い想いをストレートに伝えたいので。

 

 

そして2025年2月

毎年のようにハンガリーを訪れた際、今回は途中で足を伸ばし英国まで行きカプレオラス蒸溜所を訪れようということになった。

今まで何度も欧州へ訪れているが英国は初だ。気持ちが高まる。

ハンガリー→イギリス

早朝便のため空はまだ暗い。

到着1日目。

 

この日はホテルへのチェックインを済ませた後は予定を入れず観光に時間を割こうと思っていた。逆に言えばこの日しかない。

フルイングリッシュブレックファーストで気分はしっかり英国。

気取ってミルクティーを頼んだら南部鉄器で提供され、現実が押し寄せてくる。

英国だよな?ここ。

最初に東まで行ってロンドン塔、タワーブリッジ、テムズ川、ロンドン橋、リーデンホールマーケット、ロイズ、バンクオブイングランド、セントポール大聖堂、ビッグベン、ウェストミンスター宮殿・寺院、バッキンガム宮殿、セントジェームズ宮殿、BBR、THE SAVOY、American Bar、レスタースクエア、Wang Kei、Wetherspoon、ベイカーストリート221B、とにかく限界まで詰め込んだ。海外に来て観光のために時間を割いたのは12年ぶりだった。

 

そして本来の目的である蒸溜所訪問となる英国2日目。

バーニー氏から1通のメールが届く。

 

「……インフルエンザになりました。」

 

( ° - ° )…?

 

菅原とともにホテルで天井を見つめる。

ここまで来たのに…?あれ…?

…まぁ、また来ればいいか。

予定が大きく変更になったが気持ちの切り替えは意外と早く、とりあえず元気になってまた美しいお酒を造れるように回復してもらわねば……そう想いを込め持ってきたお土産を郵便で送った。

「気にしなくて大丈夫ですよ。おかげで観光を楽しむことができます。蒸溜所に行けないのは残念だけど、必ずまた訪れます。今回来訪時に聞こうと思っていた質問をメールで送るので元気になったら是非お答えください。」

申し訳ない気持ちがとても伝わってくるが高熱にうなされているだろう、心労を掛けないためにも全力で観光を楽しもうと決めた。

 

1日目に回れなかった美術館を巡り、パブを巡り、夜にはミュージカルも堪能することができた。

ロゼッタストーン、ギリギリ読めなかった。

ナショナルギャラリーにも行きゴッホのひまわりも見ることができた。美術館巡りは諦めていたので、これはこれで本当にいい旅になった。

地下鉄の運休や渋滞で辿り着けるか不安だったが、ギリギリ間に合ったバックトゥーザフューチャーのミュージカル。ビールを飲みながらの観劇、演出もとても良かった。

 

とにかく今回の英国訪問は個人的にはとても素敵な掛け替えのない経験になった。

帰国便で質問リストを作成しながら、蒸溜所のあるストラットンへ想いを馳せる。

 

ここからが本題とも言える。

 

数日後、質問に対する回答をいただいた。

とんでもない文字数だ。回答を受け取っただけで目頭が熱くなるほどの熱量が文章から伝わってきた。この想いは必ず伝えていかなければならない。気が引き締まる想いだ。

 

バーニー氏は何故オードヴィを造り始めたのか。

その原点は彼の植物愛からくるものだった。生物学を専攻した後に、自然保護に関する記事を専門とするフォトジャーナリストとなった彼は、世界中の様々な植物学者と仕事をする中でさらに植物の魅力に取り憑かれることになる。そして氏の地元で愛されていたシードルを自分で作る生物学的プロセスに魅了される。

そして今から16年前、そのシードルを蒸留したらどうなるのだろうかという疑問が湧いたという。

オードヴィは英国ではほとんど知られておらず、高品質なものを入手することすら困難で、独学をするにもその道は厳しいものであった。しかし氏の熱意は冷めることなく、何年もかけてヨーロッパ中の参考書や化学論文を翻訳し、自分なりのアプローチでそれらの情報や伝統の文脈を整理していったそうだ。

 

松沢は生産者側に回ったことはなく、バーテンダーとしての立場を貫き通しているが、この回答にはとても共感できた。高品質なものへのアクセスの難易度、情報収集の難しさ、入手した情報の精査が必要であること。分かる…分かるよ……と勝手に思いを寄せる。

 

影響を受けた蒸溜所は?

これだけの熱意を持ち、高品質なものを造り上げる彼が個人的に興味を持っている蒸溜所、影響を受けた生産者が気になる……競合他社についての質問は場面によっては失礼に捉えられるだろうが、この場面においては数少ない”フルーツブランデー界隈”のオタク同士の語り合いに近いものがあった。

 

特に衝撃的だったのはフランスのローランカゾット、イタリアのカポヴィッラ、オーストリアのロシェルト、ドイツのスティーレミューレだという。フルーツブランデー界隈の民であれば名前を聞いただけで頷けるだろう。多くは語らない。

 

 

原材料に対するこだわり

生物学、そして植物学が根底にある彼の思想は原材料選びにも影響を与えている。

生物多様性を重視しており、地元の小規模農家と協力し原材料を入手しているそうで、基本的には原材料として使用するフルーツは蒸溜所から35マイル圏内に限定している。果実の品種改良が盛んな地域らしく、その環境にはとても恵まれている、自分たちの仕事を心から大切にしてくれる人々との関係が生まれ、仕事へのモチベーションにもいい影響が出ている、と氏は語る。

 

発酵に対する意識

野生発酵では工業的な発酵とは相反する長いプロセスに足を踏み入れることになる。成功の秘訣は原材料の選別だと言い、果実をひとつひとつ手作業でチェックし、熟れ具合や香りの強さなどから判断をし、それぞれの果実の持つ発酵のリズムに向き合いながら作業をするのだと言う。

聞いただけでも気が遠くなる作業だ。単純な仕事ではあるが途方もない知識と経験、そしてセンスが問われる作業であり、果実の扱い方、導き方、保存の仕方を学びながら作業を進めているという。

 

 

蒸溜について

蒸溜についても質問したいことが沢山あった。

もちろんそれは素材ごと大きく異なる。その上で何か大枠としてのポリシーのようなものがあるのか訊ねた。

オードヴィにしてはとても珍しく、3回蒸溜しているという。初回で度数20%前後、2回目で50%程度まで、そして最終的に70〜80%まで持っていくという。

このレベルまで凝縮することで、果実の各部分の特性が非常に長い時間をかけて変化し、素晴らしい繊細なニュアンスを生むという。蒸溜したのちの原酒はそのまま最長で6年間熟成をさせるという。(注:フルーツブランデーにおける熟成とは一般的にステンレスタンクでの熟成を意味する。樽熟成とは全く意味が異なる。)

蒸溜した原酒のヘッドカットの目安は完全にバーニー氏の嗅覚と味覚、経験によるが、それ以上に目を見張るポイントがある。

そのポイントについて、有識者向けではなく詳しくない方向けにヘッドカットとは、という疑問に対する簡単に解説を添えながら書いていきたい

そもそも蒸溜の話になるのだが、液体を加熱すると沸点に達した時点から液体から気体に変わる(蒸発する)。物質によってその沸点は異なるが水は(気圧下において)100度で沸騰する。沸騰し気体になったものをもう一度冷やすと液体に戻る。これが蒸溜。冬場に窓が結露してるのもそういうアレ。

そしてアルコールだが、飲用のアルコールであるエチルアルコール(エタノール)と有毒性の強いメチルアルコール(メタノール)で沸点が異なる。エタノールが78.3度、メタノールが64.7度。つまり加熱した際に先に蒸発するのはメタノールであり、その後にエタノール、そして水という順番で沸騰していく。

蒸溜する際に加熱を開始して、最初に出てくるのは毒性の強いメタノールであり、これの含有量が高いと当然飲むことはできない。(毒性が強いと書くと心配に思う方が多いと思うが安心して頂きたい。日本におけるメタノール含有量の基準値をクリアしたものしか日本に輸入することはできない。我々が口にすることができるものは全て安全だという検査結果が出たものだけとなる。)

そしてその後に(飲用という意味で)上質なエタノールが出てくる。最後の方は残渣で、香りも残っていないため、この部分も使用しない。そう、最初と最後は使わない、使えない。これは大体どの蒸溜酒も同様だ。

じゃあ最初と最後を使わなければいいんだね、という簡単な話でもない。その境目は別に色が変わるだとか一回止まってくれるとか、何か目印があるわけではない。蒸溜家の経験や感覚で全てコントロールしている。

特に重要なのはその毒性が強い前半部分。ここをヘッドという。(ちなみに後半はテール)

重要なのは毒性が強いというただそれだけではない。毒性が強く使えないヘッドに果実のいい香りが含まれている。

毒性が強いからヘッドカットするよ!

でも果実のいい香りを残したいよ!

だから毒性が問題ないギリギリまで入れるよ!

この線引きが難しい。時には損切りも重要。

 

 

蒸溜の際に加熱方法は蒸溜所によっても蒸溜器によっても異なるが、バーニー氏は湯煎蒸溜を導入している。

湯煎で蒸溜できるの…?と思うかもしれないがエタノールの沸点は78.3度。蒸溜は可能だ。

ただ、非常に時間が掛かる。時間が掛かるというのはデメリットでもあり、メリットでもある。

ゆっくりと蒸溜されてくるので、ヘッドカットの区切りを細分化し、理想のポイントで切り替えることができるのだ。

 

そして

衝撃的なポイントというのはここだ。一般的なカルヴァドスの生産者と比較した際、カプレオラス蒸溜所ではその約9倍カットするという。なんという採取率の悪さだろうか。

 

ある程度クオリティを妥協し、ヘッドやテールをカットしないで沢山作れば商品が大量にできるので当然原価率も下がる。利益を重視するか、クオリティを重視するか。クオリティだけを重視しすぎると原価が上がり、それに応じて値上げをしなければならないが、設定価格に対して蒸溜以外の部分で左右されたクオリティがそれをカバーできるかどうか、それはもう蒸溜家の技術による。

カプレオラスの素晴らしい点は全ての工程において妥協がない。

もちろん他の造り手が妥協しているという意味ではない。商売として、原価や人件費などコストなどを考えた時にどうしても理想論だけではやっていけない部分があるが、そういった部分すら全て究極を追い求めている。完璧なオードヴィのために。

 

ちょっと小難しい話が続いたので分かりやすく要点をまとめる。

 

原材料となる果実を全て手作業で厳選している。

酵母の添加は一切せず、自然酵母のみで発酵をさせる。

素材によっては発酵に19週間掛けることもある。

湯煎式蒸溜で3回蒸溜

蒸溜後の原酒度数は80%。

この原酒のまま数年間をステンレスタンクで熟成させ、ライムストーンウォーター(石灰質で濾過された水)を手作業で少量ずつゆっくりと加水し度数を調整する。

 

長くなったが商品紹介の前にバーニー氏の蒸溜に対する気持ちについても伝えておきたい。

蒸溜についての質問は二通り送らせていただいた。先述の技術的な部分。そしてもう一つは個人的に一番大切だと思った心情的な部分だ。

 

蒸溜に対する想いとは

「果実の蒸溜酒の生産者、蒸溜家として行っていることには”真の特権”がある。

果樹園に実っている状態から最終製品に至るまで、果実が様々な形で存在していることを目の前で経験することができる。他に類を見ない親密さを得ることができる。

全てのフレーバー、アロマにはそれぞれの沸点がある。一つの果実の全てのスペクトルを細分化しテイスティングすることで、果実の芯から皮、そして花に至るまで、数ヶ月掛けて成長する果実の変化、それぞれのステータスにおける個性に向き合うことで様々な情景、風景、気候、歴史、遺伝的な遺産を見出すことができる。

 

昨年製造したエルダーベリーを一つの例として挙げると、2000kgの果実を全て手作業で厳選し、除梗、発酵、そして蒸溜をした。最終的に16リットルの蒸溜酒になった。2000kgが、16リットルだ。カカオ、柑橘、苔、森林、ヒースの花や蜂蜜、などの香りが凝縮されており、そのオードヴィに出会った瞬間のそれは忘れられない記憶で、全ての苦労が上書きされ、コストに対する考えは消え去った。

 

長い時間をかけて指先から滴り落ちる雫の一滴、刻一刻と変化していくその様子はまるで修行僧のようだ。

私たちは普段消費する植物の複雑さを理解していないだけであり、こうして植物の真のエッセンスを引き出すことで更なる探求の旅へと導いてくれる。」

 

改めてこの文章を和訳し綴っている今もバーニー氏の想いが伝わってくる。


 

2025年3月29日15時00分 販売開始

 

①Perry pear

ペリーペアのオードヴィ。

いわゆる一般的な洋梨とは異なり小さいサイズであまり食用とされていない。シードルなどで多用される。洋梨の祖先とも言える小さなペリーペアを手作業で選別し、厳選したものだけを使用、自然酵母で19週間掛けて発酵させやっとアルコール度数4%となる、3回蒸溜したのちにライムストーンウォーターで丁寧に加水。ほのかな甘い香り、繊細な花の香り、樹皮のような渋いニュアンス、どこか儚さを感じる優しさ。とても複雑で哀愁漂う余韻に酔いしれる。

容量:375ml

度数:43%

蒸溜年:2022

製造本数:669本

価格:18,900円(税込)

 

 

②Quince

西洋カリンのオードヴィ。

言葉では言い表せられないほどとても重層的でな香りで、まず最初に感じ取れるのは硬い果皮の野生味、柑橘を彷彿とさせる爽やかな香り、リンゴや梨のような果汁溢れる濃厚さ、そして熟した果実の蜜の香り、余韻に抜ける大自然の緑。青っぽい、という感想は出てこないとても透き通った晴れ渡る青空。加工がとても難しく手間が掛かり、蒸溜所では最初に生産に臨んだ際「2度と作らない」と決意したほど。しかしその仕上がりは本人たちも驚く香りとなり、今では自社の果樹園に252本の西洋カリンが植えられている。

容量:375ml

度数:43%

蒸溜年:2022

製造本数:482本

価格:28,000円(税込)

 

 

 ③Victoria Plum

ヴィクトリア・プラムのオードヴィ。

比較的薄味で甘み控えめな英国のプラム。フルーツブランデーと言われるジャンルのお酒の中では最も一般的な素材として使われるのはプラム。これはその数あるプラムのフルーツブランデーの中でもアルコールの角が一切なく、完熟のプラムの皮と実の間の柔らかくなった部分の可愛らしい甘い香りのみを凝縮した余韻に包まれる。舌の上で転がしても刺激は少ないので、時間をかけてじっくりと向き合うことができる。

容量:375ml

度数:43%

蒸溜年:2022

製造本数:107本

価格:29,000円(税込)

 

 ④Raspberry

ラズベリーのオードヴィ。

375mlあたり12.5kgのラズベリーを使用している。ラズベリーのフルーツブランデーは"海苔の佃煮"の香りがするというのは、もはや話題に上がらないほど当たり前とされているが、今までの人類史にない偉業を果たしたと言っても過言ではない驚愕の仕上がり。海苔っぽさが一切表に出てこない、そんな製造が可能なのか……と業界を騒然とさせた。不可能を可能にしたというレベル。その色気のある香りは今まで口にした嗜好品の経験値のどれにも当てはまらない。バラのような強烈な魅惑、ゼラニウムのような香水を彷彿とさせる爆発力、わずかに感じられるミント系の爽やかさ、ナッツ系の横に広がる甘いテクスチャ、余韻はまさに永続。あまりに官能的で重厚感と透明感のある、世界最高峰の一本。

容量:375ml

度数:43%

蒸溜年:2022

製造本数:823本

価格:34,500円(税込)

 

 ⑤Gooseberry

グースベリー(セイヨウスグリ)のオードヴィ。

強烈な酸味とほのかな甘みのある果実。蒸溜所から30マイル以内にあるグースベリーを手作業で何日も掛けて収穫をし、1リットルの製造に22kgものグースベリーを必要とする。香りはとても複雑で、スパイス、ミント、カシスなど爽やかに上へ突き抜ける軽い香りが広がる。飲み終えた口蓋が乾いてきた頃合いで広がる情景は、自然豊かなコッツウォルズの風景を思い出させる。

容量:375ml

度数:43%

蒸溜年:2023

製造本数:254本

価格:28,000円(税込)

 

 

 ⑥Garden Swift Gin

ガーデンスウィフト

34種類のボタニカルを使用したジン。ジンの製造にあたり6種類のフレーバーグループ、75種類のボタニカルリストを作成。それぞれの素材に適した方法(浸漬(マセラシオン)と蒸気抽出(ヴェイパーインフューズ))で完璧に仕上げた素材を丁寧に配合し造られている。

主原料としてガランガル、カレーリーフ、菩提樹の花、その他多くのベリーが目立つ中でオーガニックブラッドオレンジが一際目を引く。135リットルのジンを製造するたびに200個以上のブラッドオレンジを使用しており、注いだ瞬間から柑橘の香りが部屋を支配する。

ストレート、ロックはもちろんジントニックが特にオススメ。ピールなどは一切せず、僅かにライムを加え爽やかに仕上げると良い。

容量:500ml

度数:47%

価格:13,200円(税込)

 

バーニー氏からしてみれば愛する我が子を遠い地日本へ送り出す親の気分だろう。これほど素材に向き合い、愛している生産者は今まで見たことがない。この熱い想い、責任を持って皆さまへ伝えたい。

大事な製品の一部を日本へ輸出してくれたバーニー氏に感謝を。日本でお客様のもとへ届けることができる喜びを噛み締めて、これからも共に歩んでいきたい。

ブログに戻る